四季・旅・愛〜芹洋子ファンサイト  

「芹洋子ファーストアルバム牧歌」


70年代の若き歌姫(ディーヴァ)の真骨頂、「この娘の歌を聴いてくれ」


■ 「芹洋子 ファースト・アルバム 牧歌」1972年 キングSKD-144  el34oka様からご提供頂きました。



デビューアルバムというのは、シングルとはまた違い歌手の方にとっては、ご自分の音楽に対する方向性やその世界観も表現できる大切な物だと思います。他のレコード会社から何枚かのシングルを出した後、満を持して大曲『牧歌〜その夏』のシングルレコードと共に出した当アルバム。つばめの洞察も含めてご紹介してゆきます。

○全容
まず、全編曲を寺島尚彦さんが勤めていらっしゃいます。そして自ら作曲の「牧歌〜その夏」「その夕ぐれ」を提供。実力がありまだ真っ新の素材だった芹洋子さんの「実力のある歌姫」(最近ではディーヴァとよく言いますね)という面を強烈にアピールしようという意図をお持ちだったように思われます。寺島さんの「この娘の歌を聴いてくれ」という思いを感ぜずにはいられません。

作曲者の名前を見れば、寺島尚彦・小川寛興・森山良子・小室等・はしだのりひこ等の日本人実力派。外国からは60年代のヒットメイカー、アンドレ・ポップやポピュラー音楽祭優勝曲・外国民謡からの選曲もあります。
また寺島さんの趣味でもあったのでしょうが、リズム体がドラムスだけでなく、リズムギターのカッティングだったり、タンバリンだったり、時には明確なリズム体はないなど、柔らかな音を希求した姿勢に今さらながら凄いなと思います。ドラムスのスネアをバチで叩く一点張りの今日のポピュラー音楽にはむしろ頭の固さを感ぜずにはいられません。
では70年代の若きディーヴァの歌唱を聴いてゆきます。

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1.『牧歌〜その夏』
もちろん寺島尚彦さん作曲によるキングデビュー曲。1976年に再収録されることになりますが、このバージョンは力一杯歌う若き日の芹洋子さんの熱唱に胸が熱くなるほどです。
バックの伴奏の定位も76年盤よりも近くに位置していて、オーケストラに囲まれた位置で歌っているかのような印象を持ちます。
第一曲目にしてすでに「ブラボー」と叫びたいような印象になります。

2.『忘れ草をあなたに』
この曲は、寺島尚彦さん編曲によるもので、後の若松庄司さん編とは別物です。全体に寺島編曲はクラシック・ビッグバンドまたはミュージカル的な感じで、爽やかさが身上の青木望さん・若松さん編とは雰囲気が異なります。
電子楽器に頼らない、アコースティックな魅力ですね。それがこのアルバムを聴いていて思わず顔がほころんでしまう点です。

3.『愛の日々よここに』
マルティーヌ・クレマンソーがポピュラー音楽祭で歌った曲です。静かな『忘れ草をあなたに』を挟んで、またも歌い上げる難曲でアルバムの山を築いてゆきます。

4.『秋の砂山』
静かな日本情緒を感じる曲で、既に愛唱歌としても定着しています。小川寛興さんとはこの後もアルバムの曲を沢山提供されたり、あの北海道能取湖に歌碑が建立される「サンゴ草咲く日に」も作曲頂いている方です。

5.『知らないところで』
フォークソング調の可愛らしい曲です。大曲やしみじみ聴かせる曲が続いたのでここで一休みという感じでしょうか。ヤマハのポプコン関係の曲だと思います。

6.『タパリャ』
ロシア民謡で、ボニー・ジャックスの西脇久夫さんが訳詞をされています。昭和60年代までは「ロシア民謡」をはじめロシア文化が一部ながら日本でも見られましたね。

7.『おやすみ』
曲について詳しいことは分からないのですが、ハジェフという方の作曲の静かな曲でA面が終わります。

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8.『ただ愛に生きるだけ』
この曲は作曲がA.Poppとあります。あの「恋は水色」を書いたアンドレ・ポップさんでしょうか?ヤマハのポプコンへの出典曲のようです。ここでまた芹洋子さんの実力全開の歌唱が繰り広げられます。

9.『この広い野原いつぱい』
森山良子さんの大ヒットですね。この時代、フォーク調の女性歌手には定番の楽曲だったように思います。弦楽の長い音から爽やかな前奏に入ってゆきます。

10.『朝の緑夕方の空』
小室等さんのどこか可愛らしい感じのフォークソングです。

11.『海の子守唄』
寂しく暗い雰囲気の、絶望的な感じがする歌です。このような曲が成立する のも1970年代初めだからでしょうか?作詞山上路夫さん、作曲高橋五郎さん という想像もできないコンビから生まれた忘れがたい一曲です。

12.『星と虹と』
「みんなのうた」からの一曲です。

13.『ばらのことづけ』
私的にカセットテープで保存してあるNHKラジオで実演された放送の「ばらのことづけ」と 同じ詩・編曲でした。レコードのは踊りたくなるようなさらに軽快な編曲。ラジオでのものは原信夫さんのビッグバンドが最後に向かってテンポがエキサイトしてゆき、芹さんも渾身の歌唱でグワーと盛り上げるライブ感溢れるものでした。
曲はイタリアの歌姫ジリオラ・チンクエッティの名曲で、そちらもレコードを持っているのですが本当にオリジナルに負けていません。

14.『牧歌〜その夕ぐれ』
正につばめにとっては、どんなに願っても叶わない歌との出会いでした。が その出会いが奇跡のように実現しました。「牧歌〜その夏」がまさに歌い上げるスケールの大きい、ファンタジー調の熱い曲だったのに対し、こちらは淡々とした一少女の恋に憧れる詩歌という感じがします。夏が過ぎ去って秋のあの物憂い感じといったらいいのでしょうか?
「その夏」と「その夕ぐれ」。ペアで聴くことができて本当に感激です。